パッシブデザインとは?
メリットやデメリット、建築時のポイントを解説

2024/11/16 公開

パッシブデザインとは?メリットやデメリット、建築時のポイントを解説

光熱費の高騰が家計に影響を与える昨今、住宅設計の分野で注目を集めているのがパッシブデザインです。パッシブデザインを取り入れると、断熱性や気密性を高め、夏は涼しく冬は暖かい住環境を実現できます。

この記事では、パッシブデザインの基本概念や特徴、メリット・デメリットなどについて詳しく解説します。注文住宅を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。

パッシブデザインは太陽の光や熱、風といった自然エネルギーを生かし、快適で健康的な住空間を作るための設計手法です。設計の工夫と自然の力により、夏には涼しさを、冬には暖かさを実現し、エアコンなどの機械に依存しない住環境を構築します。

自然エネルギーを巧みに取り入れることで、省エネルギーでランニングコストの低い住宅が実現します。地球に優しい暮らしを志向する方にとって、パッシブデザインは魅力的な選択肢となるでしょう。

アクティブデザインとの違い

パッシブデザインと似た用語に、アクティブデザインがあります。自然の力を活用するパッシブデザインに対し、アクティブデザインは機械を用いた人工的な力で住まいの省エネ性や快適性を実現する手法を指します。例えば太陽光発電システムや蓄電池、エコキュート、全館空調システム、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)などの先進技術を取り入れて、エネルギー利用の最適化を目指すのがアクティブデザインの考え方です。

両者は異なる方法で快適な住環境を実現しますが、どちらも環境負荷を抑えた持続可能な暮らしを目指すという点は同じです。それぞれの特長を理解した上で設計手法を選ぶことをおすすめします。

パッシブハウスとの違い

パッシブハウスとは、ドイツのパッシブハウス研究所が独自で定めた省エネ基準をクリアした住宅を指します。認定されるには冷暖房負荷、気密性能、一次エネルギー消費量について一定の基準を満たす必要があり、さらに社団法人であるパッシブハウス・ジャパンの認定を受けなければなりません。パッシブハウスに認定されるための基準は厳しく、日本国内でパッシブハウスに認定されている住宅はごくわずかです。

パッシブデザインには、パッシブハウスのような性能基準がない点が大きな違いです。またパッシブハウスの性能は後から追加することが難しいため、計画段階からしっかりと設計する必要があります。

住まいのパッシブデザインを考える上で欠かせないのが、以下の5つの要素です。

  • 断熱性能
  • 自然風利用
  • 昼光利用
  • 日射熱利用暖房
  • 日射遮蔽

ここからは、それぞれの内容について詳しく解説します。

断熱性能

快適な住宅には、高い断熱性能が欠かせません。断熱性能を示す指標の一つが、UA値(外皮平均熱貫流率)です。UA値とは、建物の表面からの熱の逃げやすさを示す数値で、値が小さいほど断熱性能が高いことを表します。

建物の表面とは、屋根や外壁、床、窓、ドアなど外気温の影響を受ける面のことです。これらの断熱性を高めることにより、建物の保温性が向上し、快適な住環境を保つことが可能です。エアコンなど冷暖房機器の使用頻度や設定温度を抑えられるため、家計の節約にもつながります。

自然風利用

空気は温まると上昇し、冷えると下にたまる特性を持っているため、この性質と自然の風の力を考慮した設計が求められます。具体的には窓の配置や大きさ、吹き抜け・シーリングファンの設置といった工夫を凝らすことです。風の通り道を作ることで自然の風を効果的に取り入れ、室内にこもった熱やホコリを外に排出できるため、居住空間の質が向上します。

昼光利用

太陽の光を十分に取り込めるよう設計することで、日中は照明を使わずに室内の明るさを確保できます。電気代の節約につながるだけでなく、太陽光の明るさや暖かさによって、より快適な空間を実現できるでしょう。

太陽光を効果的に取り入れるためには、日照シミュレーションが欠かせません。季節ごとの太陽の動きや周囲の建物との位置関係を考慮し、最適な窓の配置や大きさを決定しましょう。特にリビングやダイニングなどの生活の中心となる空間は、明るさを確保することが大切です。

日射熱利用暖房

日射熱利用暖房とは、日射熱を室内に取り入れて室温を上昇させ、暖房として機能させる方法です。この仕組みを活用することで、暖房の使用量を最小限に抑えながら、室内を快適な温度に保てます。特に冬期は自然のエネルギーを最大限に活用すれば、一日を通して室内の気温差を小さくできるため、暖房の使用量を最小限に抑えて暖かな室温を維持できるでしょう。

日射熱利用暖房には、前出の昼光利用と同じく日照シミュレーションが不可欠です。さらに断熱性能にもこだわることで、取り入れた熱が室内から逃げにくくなり、夜間でも暖房効果が持続します。

日射遮蔽

日射熱の利用によって冬の暖房効果が期待できる反面、夏は太陽の光を遮らないと快適な室温を保てません。夏の日差しを強く受ける建物では、室温を適切に保つために冷房を多く使用することになります。とはいえ、日差しを過度に遮ると昼間でも室内が暗くなり、照明を使わざるを得なくなります。また冬季には太陽の暖かい光を取り込むことが難しくなり、室内が寒くなりやすくなるため、日射遮蔽はバランスが重要です。

対策としては、設計段階で庇や軒、シェードなどを取り入れることが効果的です。また、窓に可動式のルーバーを設置することで、日射の角度に応じた調整が可能になり、適切な光と熱を室内に取り込めます。

パッシブデザインのメリット

ここからは、前述のパッシブデザインの5つの要素を踏まえつつ、パッシブデザインを取り入れた住宅でどのようなメリットが得られるのかを解説します。

年間を通して快適に過ごせる

パッシブデザインを取り入れた住宅のメリットは、前述の通り夏は涼しく冬は暖かい住空間を実現することです。夏は庇や軒、シェードで日差しをコントロールし、窓の大きさ・位置を工夫して風の通り道をつくることで、室温が上昇するのを防げます。冬は日射熱を取り入れ、一日を通して室内の気温差を小さくすることにより、暖房器具を使用せずとも寒さをあまり感じない環境を作り出せます。

自然光や自然風を利用することで、冷暖房の使用を最小限に抑えながら、一年中快適な室内環境を保てます。

地球に優しい

パッシブデザインを取り入れた住宅は、地球に優しい設計として注目されています。パッシブデザインの住宅では自然の光や風を活用することで、一般的な住宅と比較して、冷暖房にかかるエネルギーの削減が可能です。冷暖房使用で排出される二酸化炭素の量を抑えることができ、地球温暖化の防止に貢献します。

またパッシブデザインの住宅は、国の政策であるSDGs(持続可能な開発目標)にも関連しています。持続可能な暮らしを実現するためには、設計段階で環境に配慮した地球に優しいエコな住宅を意識することが重要です。

光熱費を削減できる

パッシブデザインを取り入れた住宅は高気密・高断熱設計のため、冷暖房使用時に外部にエネルギーが漏れにくく、少ないエネルギーで一定の快適な室温を保つことが可能です。物価高が続く近年、エネルギー価格も高騰が続いていますが、冷暖房の稼働を抑えられれば光熱費の削減につながります。省エネで経済的な暮らしを実現するために、住まいにパッシブデザインを採用することは有効な手段といえるでしょう。

健康に良い影響を与える

パッシブデザインを取り入れた住宅は、風通しの良い設計によって空気がスムーズに循環し、適度な温度や湿度を保つことができるため、家族の健康にも良い影響を与えます。例えば朝晩の急激な気温変化が起こりやすい季節の変わり目には、健康な方でも体調を崩しがちです。また寒さが深まるにつれて家の中の温度差が激しくなり、ヒートショックのリスクも高まります。

建物の断熱性能や通風設計を活用するパッシブデザインの住宅では、室温の変化を緩やかに保つことができ、これらのリスクを抑えることが可能です。快適で暮らしやすい住環境だけでなく、健康面においても大きなメリットを享受できるでしょう。

補助金制度を活用できる可能性がある

2024年現在、パッシブデザイン住宅に対する補助金制度はありません。しかしパッシブデザインの要素を取り入れた上で特定の条件を満たすことにより、適用される補助金制度があります。補助金を活用できれば、快適に暮らせる住宅をお得に建てられるかもしれません。ここではパッシブデザイン住宅に適用される可能性がある補助金制度として、「地域型住宅グリーン化事業」「ZEH支援事業」を紹介します。

地域型住宅グリーン化事業

地域型住宅グリーン化事業とは、地域材を用いた省エネ性能の高い新築木造住宅を対象とした支援事業です。対象となるのは、長期優良住宅またはゼロ・エネルギー住宅(認定低炭素住宅含む)で、補助金額の上限は140万円/戸(令和5年度)です。

地域型住宅グリーン化事業の補助金制度を利用するには、国土交通省の採択を受けた中小工務店や関連事業者がグループを作り、補助金の交付申請をする必要があります。補助金は事業者が受け取り、施主には間接的に補助金相当額が還元される仕組みです。

※出典:国土交通省.「令和5年度 地域型住宅グリーン化事業(認定長期優良住宅、ZEH・Nearly ZEH、認定低炭素住宅、ZEH Oriented)」(2023-06-05)

ZEH支援事業

ZEH(ゼッチ)支援事業は、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の新築や改修に対する補助金制度です。基本的に70万円の補助金が支給され、さらに条件を満たすことで追加の補助金も受け取ることができます。

補助金を受ける方法は、以下の3つです。

  • ZEHビルダーやプランナーに依頼して新築する
  • ZEHビルダーやプランナーが手がけたZEHの新築建売を購入する
  • 既存の自宅をZEHビルダーやプランナーにリフォームしてもらう

※参考:一般社団法人 環境共創イニシアチブ.「令和6年度 ZEH補助金」(2024-10-16)

パッシブデザインを取り入れた住宅にはさまざまなメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。採用を決断する前に、どのようなデメリットがあるのかを把握しておきましょう。

初期コストが高い

パッシブデザイン住宅は、一般的な住宅と比べて建築時にかかる初期コストが高額になりがちです。高性能な住宅を実現するためには、断熱材の厚みを増やしたり、高品質な材料を使用したりする必要があります。またパッシブデザインに精通した、限られた建築会社のみが設計することもコストアップに影響します。

しかしパッシブデザイン住宅は冷暖房にかかる光熱費が抑えられるため、長期的な視点で見ると経済的メリットがあるといえるでしょう。ランニングコストが低く抑えられることから、総合的にはコストパフォーマンスが良いと評価されるケースが増えています。

性能を十分に発揮できない可能性がある

自然エネルギーを最大限に活用する設計が特長のパッシブデザインですが、土地や周辺環境によっては、その性能を十分に発揮できない可能性があります。特に住宅密集地では、隣接する建物が影を落とし、日射や風の流れを利用した快適な住環境を実現できないケースも珍しくありません。パッシブデザインの恩恵を受けるためには、適切な土地選びが重要です。

間取りやデザインに制限がかかる

パッシブデザインを取り入れた住宅は、自然エネルギーを最大限に活用することを重視するため、間取りやデザインに制限がかかることがあります。地域ごとの気候特性や立地条件に応じて、太陽光や風を効果的に取り入れる設計が求められるため、イメージしている理想の間取りやデザインが実現できるとは限りません。

そのため建築会社と密にコミュニケーションを取って自分のイメージをしっかり伝え、どこまで実現可能かを確認し、難しい場合は代替案を提示してもらうことが大切です。

依頼できる建築会社が限られる

全ての建築会社がパッシブデザインに精通しているわけではありません。パッシブデザインを取り入れた住宅を実現するためには、専門的な知識と一定以上の技術力を持つ建築会社に依頼する必要があります。適切な技術を持った会社を見つけるのが難しい場合もあり、選択肢が限られることがデメリットの一つです。

パッシブデザイン住宅を建てる際のポイント

パッシブデザイン住宅のメリット・デメリットを押さえた上で、次にパッシブデザイン住宅を建てる際の注意点について解説します。ポイントを押さえておくことで、完成後の満足度は大きく変わるでしょう。理想のパッシブデザイン住宅を実現するために、ぜひお役立てください。

予算を決めておく

前述の通り、パッシブデザイン住宅は一般的な住宅に比べて、初期コストが高くなる傾向にあります。特に性能にこだわるほど建築費が増加し、予算オーバーになりがちです。そのため、事前にトータルコストを明確に設定し、コストをかけるべきところと削減できるところを見極めることが大切です。

パッシブデザインが普及すれば、日本でも建築コストが徐々に下がるかもしれません。冷暖房にかかる光熱費も抑えられるため、長期的な視点で考えるとお得といえます。

家族が住みやすくなることを想定する

パッシブデザイン住宅の性能にこだわることも大切ですが、高性能であることが必ずしも住みやすさに直結するわけではありません。いくら高機能・高性能な住宅でも、実際の生活を無視した設計では快適さが損なわれます。また住宅の性能にコストをかけすぎてインテリアやエクステリアが手薄になることがあり、これも住みやすさを低下させる要因の一つです。

失敗を避けるためには、住み始めてからの生活を具体的にイメージし、どのような空間が家族にとって快適かを考えながら設計しましょう。家族が心地良く感じる空間を追求することが重要です。

その土地の気候や周辺環境を調査する

パッシブデザインは、自然エネルギーを最大限に活用するための設計方法です。そのため、土地選びが重要なポイントとなり、その土地の気候や周辺環境の事前調査が欠かせません。

しかし専門的な知識がないと、パッシブデザインに適した土地かどうかを判断するのは難しいでしょう。まずはパッシブデザインに精通した建築会社を選び、連携して土地選びを行うことをおすすめします。

実績豊富な建築会社に依頼する

自然エネルギーを活用した快適な住環境を実現するには、豊富な専門知識や技術力が求められます。パッシブデザイン住宅を建てる際は、事前に建築会社のホームページや建築実例を確認し、パッシブデザイン住宅の実績があるかどうかを確認しましょう。実績が多い建築会社であれば、自分の希望するパッシブデザイン住宅を実現できる可能性が高まります。

パッシブデザイン住宅は、設計の工夫によって自然エネルギー効率を高め、快適な住空間を提供します。ただし、立地によっては性能を引き出せない可能性があるため、まずは地域の気候や周辺環境を熟知した建築会社に相談することが大切です。

神奈川県厚木市と東京都世田谷区に拠点を置くタイセーハウジングは、地域密着の工務店として、2009(平成21)年より1,000棟を超える家作りに携わってきました。神奈川・東京でパッシブデザイン住宅を検討する際は、ぜひ一度タイセーハウジングにご相談ください。