2025/11/22 公開
近年、クマの出没は山間部だけでなく、私たちの暮らす市街地や住宅街でも急増しています。「まさか自分の家には来ないだろう」という油断は禁物です。クマを「寄せ付けない」環境づくりは、あなたと大切な家族の命を守る最初の一歩です。
本ページでは、クマの生態から過去の熊害事件を通し、今日から家庭でできる具体的な対策をまとめました。正しい知識と備えで、安心できる住まいを守りましょう。
クマ類による人身被害者
| 年度 | 被害件数 | 被害人数(死亡者数) |
|---|---|---|
| 2025 (10月末まで) |
176 | 196(12) |
| 2024 | 82 | 85(3) |
| 2023 | 198 | 219(6) |
| 2022 | 71 | 75(2) |
| 2021 | 80 | 88(5) |
| 2020 | 143 | 158(2) |
| 2019 | 140 | 157(1) |
| 2018 | 51 | 53(0) |
| 2017 | 100 | 108(2) |
| 2016 | 101 | 105(4) |
| 2015 | 52 | 56(0) |
| 2014 | 116 | 122(2) |
| 2013 | 46 | 56(2) |
| 2012 | 75 | 77(1) |
| 2011 | 70 | 81(2) |
| 2010 | 145 | 150(4) |
| 2009 | 52 | 63(2) |
| 2008 | 52 | 59(3) |
クマとは、クマ科に属する哺乳類の総称です。 がっしりした体躯と発達した爪を持ち、嗅覚が非常に優れており、世界中に生息しています。日本では、北海道にヒグマ、本州以南にツキノワグマが生息しています。
体は分厚い毛皮と脂肪・筋肉に覆われており、人間よりはるかに頑丈です。また、指は5本あり、それぞれに長く湾曲した出し入れできない鉤爪(長さはヒグマで5~8cm、ツキノワグマで約5cm)があり、踵を含む足の裏全体を使って歩行し、後足で立ち上がった時にも比較的安定することが可能です。
嗅覚が特に発達しており、イヌの7倍もの嗅覚をもつといわれています。また、聴覚も非常に優れており、20Hzから30kHzまでの広い範囲の音を聞き取ることができるため、人間には聞こえないような高音や、地面を伝わる低周波の音も感知できます。
知能は、哺乳類の中でも非常に高いレベルにあり、イヌと霊長類の中間に匹敵すると考えられています。学習能力に優れ、特に食に関する記憶力が高く、一度覚えた味や場所を記憶して繰り返すことがあります。また、ゴミ箱の開け方を知的に学習したり、人間が来る時間を把握したりする行動も見られます。
主な活動時間帯は明け方と夕暮れ時(黎明薄暮時)で、この時間帯に人里に降りてくる可能性が高くなります。ただし、人里に慣れてしまうと夜行性になることがあります。
日本では主に北海道に生息するクマです。食性は雑食だが、同じクマ科のツキノワグマに比べると肉食の傾向が大きいです。
現代の日本列島に生息する陸上動物としては最大の生き物であるエゾヒグマ。北海道に生息するエゾヒグマは過去数々の獣害事件を引き起こしている。
日本では主に本州と四国(九州では絶滅)に生息するクマです。植物食中心の雑食性で、ほとんどどの時期で植物の葉、果実、種子などの植物食を主食としています。胸部に三日月形やアルファベットのV字状の白い斑紋が入っていることで知られているが、この文様がない個体もいる。
植物食中心の雑食性であるツキノワグマ。しかし、2016年に十和利山熊襲撃事件のように、積極的にヒトを襲い捕食しようとする個体が出ることもあるため、注意が必要だ。
ヒグマ・ ツキノワグマ・ ヒトのフィジカル対決
| 項目 | ヒグマ | ツキノワグマ | ヒト |
|---|---|---|---|
| 体長 | オス 約2.0~2.8m メス 約1.8~2.2m |
約1.2~1.8m | オス 約1.7m メス 約1.6m |
| 体重 | オス 約250~500kg メス 約100~300kg |
オス 約50~120kg メス 約40~70kg |
オス 約60〜80kg メス 約50~60kg |
| パンチ力 | 2000kg | 700kg | 150~200kg マイク・タイソンで500~1,000kg |
| 走力 | 時速50km程度 (100m7.2秒) |
時速40~50km程度 (100m7.2~9秒) |
時速8~12km程度 ウサイン・ボルトで時速約44.72km |
| 咬合力 | 約975~1,200 PSI | 約500 PSI | 約160 PSI アスリートで200 PSI |
この比較表を見ると、ヒグマよりも弱いとされるツキノワグマでさえも、人間以上の身体能力をしていることが分かります。
ツキノワグマは言い換えると、犬以上の嗅覚があり、ウサイン・ボルト並のスピードとマイク・タイソン並のパワーを兼ね備え、分厚い毛皮と脂肪の鎧と刃渡り5cm以上のナイフを装着した人間とほぼ同じくらいの能力を持つ生き物だということです。
こんな怪物級の生き物に生身の人間が襲われたら、ひとたまりもないのがよく分かりますね。
テレビ番組などで初めてヒグマを見た時、なんか全体的にイカつい・・・と驚いた方も多いかもしれません。それに比べツキノワグマは全体的にスマートな印象を受けます。同じ日本に生息するクマなのに、ここまで大きさが違うのは何故なのでしょうか?これは主に種の違いと生息環境によるものなのです。
日本のヒグマの祖先はもともとユーラシア大陸北部に起源を持ちます。氷期(特に更新世後期)に海水面が低下し、大陸と北海道が陸続きになった時期があり、その際にサハリン(北海道の北に位置する細長い島)を経由して北海道へ移動してきたと考えられています。一方、日本のツキノワグマの祖先は、30~50万年前の氷河期にアジア大陸から朝鮮半島などを経由して、陸続きになっていた対馬や九州北部を通じて本州や四国へ渡ってきたと考えられています。
また、ここ数万年の氷河期においては津軽海峡によって隔てられており、お互いに行き来できませんでした。そのため、ヒグマとツキノワグマは同じクマといえども、そもそもの種が違うというわけです。
ヒグマが生息する北海道は唯一より寒い気候の冷帯(亜寒帯)に属します。年間の平均気温は約5〜10℃ですが、地域によって差が大きく、季節によって気温の変動も大きいです。特に冬は非常に寒く、日中も氷点下になる日が多くなり、最低気温は氷点下20℃前後になることもあります。このような過酷な寒冷地では、体の大きい方が体重あたりの体表面積の比率が小さくなり、熱を保ちやすくなります。逆に体の小さくなると体重あたりの体表面積の比率が大きくなり、熱を逃がしやすくなります。
これはベルクマンの法則といい、同じ種または近縁の恒温動物において、寒い地域に生息するほど体が大きくなり、暖かい地域に生息するほど体が小さくなるという傾向にあります。例えば、ヒグマの体重は大きいもので約400kgほどですが、さらに寒い地域に生息するホッキョクグマだと大きいもので650kgにもなります。逆に暑い地域に生息するマレーグマだと大きいものでも65kg程度です。
このような種の違いと生息環境の違いにより、同じ日本に生息するクマでも大きさが違っているわけです。
近年では北海道・東北地方において、クマによる襲撃事件が深刻なものとなっています。特筆すべきは、山間部だけでなく私たちの生活圏である市街地での遭遇リスクが急増しているという点です。
今のところ厚木市周辺では山林周辺での目撃情報があるのみで、深刻な被害は出ていませんが、気をつけるに越したことはないでしょう。特にクマが冬眠に備えて脂肪を蓄えるために餌探しをする秋(9~11月)、冬眠から目覚めたクマが食べ物を求める春(4~5月頃)は、クマの動きが活発になるため注意が必要です。
日本史上最悪の熊害事件である三毛別羆事件では、現代のような頑丈な建物でなかったとはいえ、家屋の壁を破って屋内に侵入してきたといわれている。
2025年に起こったクマによる獣害事件
| 日付・場所 | 概要 |
|---|---|
| 10月24日 秋田県 東成瀬村 |
襲われた人を助けようとし、自宅から外に出た30代男性が死亡。同日猟友会員がクマを発見後、駆除。 |
| 10月16日 岩手県 北上市・瀬美温泉 |
清掃作業中の60代男性従業員が行方不明となり、現場に血痕や動物の体毛が確認される。翌日現場から50mほど離れた林から身元不明の男性の遺体が見つかり、そばにいた1.5mほどのクマを猟友会が駆除。後日身元不明の男性の遺体は60代男性従業員のものと特定。 |
| 10月8日 岩手県 北上市・夏油大橋近くの山林 |
行方不明だった73歳男性とみられる遺体を発見され、遺体のそばにクマがいたのを発見。後に警察により「クマに襲われ死亡」と断定。 |
| 10月3日 宮城県 栗原市・栗駒山 |
キノコ採りのグループがクマと遭遇し、75歳女性が死亡。もう1名の女性が行方不明。 |
| 8月14日 北海道 知床半島・羅臼岳 |
下山途中の20代の男性がヒグマに襲われ、山林に引きずり込まれる。翌日約200メートル離れた山中で遺体で発見され、付近にいたヒグマの親子3頭が駆除。 |
| 7月12日 北海道 福島町 |
早朝の新聞配達中、50代の男性が数十メートル先の草むらへ引きずり込まれる。18日未明、事件現場から約1キロ離れた住宅地付近の茂みでクマ1頭が発見され、ハンターによって駆除。DNA鑑定の結果、4年前に町内の山林で発生した別の女性(当時77歳)の死亡事故にも関与していた同一個体であることが判明。 |
| 6月22日 長野県 大町市 |
タケノコ採り中、男性2名が襲われ1名が死亡、1名負傷。 |
有名な熊害事件
| 日付・事件 | 概要 |
|---|---|
| 2019~2023年 OSO18 |
北海道東部の牧場で少なくとも64頭から66頭もの牛を襲撃し、甚大な被害をもたらした。2023年7月にハンターにより駆除。長期間にわたり捕獲の網をすり抜け続け、地元では「忍者グマ」とも呼ばれた。(名前のOSO18は最初に被害が確認された場所が標茶町オソツベツ地区であったことと、残された前足の足跡の幅が約18cmであったことに由来) |
| 2016年 十和利山熊襲撃事件 |
5月から6月に起きた秋田県鹿角市十和田大湯(とわだおおゆ)の十和利山山麓で発生した熊害事件。日本の記録に残るものでは史上3番目の被害を出した獣害事件といわれ、死者は4名。タケノコ採り目的で山に入る人間と、タケノコ食を好むクマが接近し過ぎたことで起きてしまったと考えられている。 |
| 2012年 秋田八幡平クマ牧場事件 |
4月20日に秋田県鹿角市の秋田八幡平クマ牧場で発生した事件で、冬季に運動場へ投棄された雪を足場とし、6頭のヒグマが脱走。ヒグマの襲撃により女性飼育員2名が死亡、脱走したヒグマは地元猟友会により駆除。当施設では赤字続きで十分なエサを与えられておらず、杜撰な管理体制であったことが指摘されている。 |
| 2009年 乗鞍岳クマ襲撃事件 |
9月19日に乗鞍岳に属する魔王岳の登山口付近にある乗鞍岳の畳平バスターミナルで発生した、ツキノワグマが観光客など10人を次々と襲った事件。奇跡的に死者は出なかったが、短時間に10名(重傷3人・軽傷7人)の負傷者が出た。一時はバリケードが張られていたバスターミナル館内にまで侵入されてしまったが、シャッターで閉じ込めることに成功。駆けつけた高山猟友会丹生川支部のメンバー4人によって駆除。目撃情報により何らかのキッカケで大黒岳にいたクマが山を下り、興奮状態のまま1,000人以上もの観光客が集まる畳平バスターミナルに辿り着いてしまった末の凶行と考えられている。 |
| 1970年 福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件 |
7月25日から27日にかけて、北海道静内郡静内町(現・日高郡新ひだか町静内高見)の日高山脈カムイエクウチカウシ山で発生した獣害事件。ヒグマに3日間で6度も襲撃され、3人の登山者が死亡。29日にヒグマは八の沢カール周辺でハンター10人の一斉射撃により駆除。食べ物に執着するヒグマから漁られた荷物を取り返してしまったこと・その状態のまま登山を強行してしまったこと・ヒグマに背を向けて逃げ出したこと・道内にいるヒグマの習性を把握していなかったこと・時間や悪天候でヒグマが行動を制限されると思い込んでいたことが、この事件につながったと指摘されている。 |
| 1923年 石狩沼田幌新事件 |
8月21日から24日に北海道雨竜郡沼田町の幌新地区で発生した、日本史上2番目に大きな被害を出した熊害事件。ヒグマが開拓民の一家や駆除に出向いた猟師を襲い、4名が死亡、4名の重傷者を出したが、24日に結成されたヒグマ討伐隊メンバーにより駆除。夏祭りから帰宅中の開拓民の一家が、不運にもヒグマが馬を埋めた土饅頭(ヒグマが食べきれない獲物を隠すために土を被せた場所)の近くを通ってしまい、「大事な餌を奪う敵」と見なされたのが原因といわれている。 |
| 1915年 三毛別羆事件 |
12月9日から14日に北海道苫前郡苫前村三毛別(現:苫前町三渓)六線沢で発生した日本史上最悪の熊害事件。開拓民の集落を二度にわたって襲撃し、死者7人・負傷者3人を出した後、猟師により駆除。ヒグマが被害者の通夜にも再び現れるなど、自分がエサと認めたものに対する執着性が事件をさらに拡大させてしまった。 |
| 1878年 札幌丘珠事件 |
1月11日から1月18日にかけて北海道の石狩国札幌郡札幌村大字丘珠村(現在の札幌市東区丘珠町)で発生した熊害事件。冬眠から目を覚ましたヒグマが猟師や開拓民の夫婦を襲い、死者3名、重傷者2名を出した後、駆除隊により駆除。解剖の結果、冬眠に備えての十分な食いだめができず、雪中では餌を求めることも叶わず、進退窮まった末に暴挙に及んだといわれている。 |
クマの事件の報道では度々『命に別状ない』という言葉が使われます。一見すると「命が助かった、何事もなくて本当に良かった!」とも思える平和な言葉ですが、実際にはそんな単純な言葉では片付けられない深刻な被害が見え隠れしています。
クマの爪は捕食・木登り・穴掘りなどに様々な用途で使われ、とても硬く雑菌だらけです。この爪で受けたキズはナイフで切ったようなキレイな傷跡にはならず、引き裂かれて押しつぶされるような損傷(鈍的外傷の特徴も併せ持つ)や重篤な感染症が引き起こされる可能性があります。また、クマは踵を含む足の裏全体を使った直立姿勢を取ることができ、必然的に高い位置への攻撃となるため、ヒトへの被害が顔面や頭部に集中する場合が多いです。さらに、単純に恐ろしいほど力が強いため、骨折や筋肉の深い裂傷、目や鼻、耳や四肢の欠損や機能障害が引き起こされることもあります。
このような攻撃の特性から、被害者へのダメージは『命に別状なく』とも、深刻な後遺症や機能障害、外見の変化、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が引き起こされてしまいます。そのため、事件後の人生が事件前のものに比べ、大きく変わってしまう場合もあるのです。
しかし、クマのニュースではこのような被害が発生したとしても、被害者の命が助かってさえいれば『命に別状ない』と報道されるケースも少なくありません。もちろん凄惨な被害についての詳細を、お茶の間に伝えるわけにはいかないテレビ局の事情もあると予想されますが、『命に別状ないから良かった』と安易には聞き流さず、『一歩間違えれば命に関わる』という野生のクマの怖さを深く受け止めるべきでしょう。
現状の建築基準法は、建築物が最低限備えるべき安全性(構造耐力・防火・衛生など)を定める法律であり、主に地震力・風圧力・積雪荷重・積載荷重といった一般的かつ広範な外力に対する基準を設けています。前述の通り、クマは圧倒的な身体能力を持つ生き物のため、現状の建築基準法に則して建てられた住宅ではクマの侵入を完全に防ぐことは難しいです。
ただし、家そのものの対策と、敷地全体の「クマを寄せ付けない環境づくり」の両面から考えることで、クマの侵入リスクを大幅に減らすための対策を施すことは可能です。
2025年には北海道と東北地方の都市部や住宅地でのクマの出没が相次いだ。これ以上深刻な事態になる前に政府の早急な対策が求められる。
窓や玄関など、すべての開口部にシャッターや強度の高い戸を設置し、確実に施錠します。ただし、体重数百キロ・筋力数百キロのクマが本気で入ろうとすれば入られてしまうため、あくま侵入するまでの「時間」を稼ぎ、クマに「ここは面倒だ」と思わせる目的のものなります。
物理的な力による破壊を防ぐため、壁や基礎などに強度のある建材の使用が有効です。ただし、クマの攻撃力に特化した建築基準は一般的ではないため、ハウスメーカーと相談し、頑丈な構造(鉄骨造など)を検討します。
クマが足場にして登れるような構造物(室外機、屋根のひさし、大きな木の枝など)を極力排除したシンプルな設計にしましょう。ツキノワグマは木に爪を食い込ませ、スルスルと登ることが可能です。ヒグマの場合、体が大きくて重いためツキノワグマほど木登りが得意なわけではありませんが、登れないわけではありません。
生ゴミ・野菜くず・果物の放棄残渣・ペットフードなどを屋外に放置しないことが基本です。同じく家庭菜園や果樹、ペットの屋外飼育もクマを誘引する原因となります。クマはイヌ以上の嗅覚でエサを探し回っているので、クマが食べれるものを家の周囲に放置しないようにしましょう。
クマは基本的に臆病で警戒心が強いため、身を隠せる安全な場所を好みます。山際や通路周辺の藪や草むらを定期的に刈り払ったり、使っていない物置や廃材なども撤去し、見通しを良くしておくことでクマの隠れ場所・移動経路として利用されないようにしましょう。
敷地境界や家庭菜園などにフェンスや電気柵を設置するのは非常に有効な手段です。特に、地面を掘って侵入するクマを防ぐために、2重柵や地際近くに電気柵を設置する「トリップ柵」などが推奨されます。ただし、電気柵の設置には専門的な知識が必要なため、専門業者に依頼しましょう。
クマの襲撃事件は主に山中や、山と人里の境界である山際(里山)で多く発生しています。クマの生息地と人間の活動圏が重なる場所では、より慎重な行動が求められます。特に冬眠前(9月〜11月頃)と冬眠明け(4月〜5月頃)の次期は、クマがエサを求め活発になるので注意が必要です。
クマの行動が活発になる時間帯は明け方と夕暮れ時(黎明薄暮時)なので、この時間帯の活動は避けるようにしましょう。ただし、人里に降りてきたクマの場合、人目を避けるため夜行性になることがあります。その場合、クマは毛が黒色寄りで足音が小さく、夜は存在が目立ちにくいため、遭遇事故につながりやすいです。なるべく夜間の活動も避けておくと良いでしょう。
クマを含む多くの野生の捕食動物は、狩りの成功率を高めるために、本能的に弱い個体(幼獣・老齢・病気・怪我など)を狙う傾向があるため注意が必要です。また、集団行動をしている個体より単独行動をしている個体を狙う傾向にあります。なるべくバラバラにならず、賑やかに話すようにアピールしておくと襲われにくいです。
家の周囲に潜んでいる可能性もあるので、出会い頭に襲われないように家から外へ出る際や家の中に入る時にも警戒するようにしましょう。特に周囲にクマの痕跡(フンや足跡、熊棚や掘り返し跡)、クマ臭(濡れた犬のような臭い、あるいは腐敗臭のような独特の強い臭い)、鼻息(「フンッ」「グォッ」という呼吸音)や藪をかき分ける音など少しでも違和感を感じた場合、警戒レベルを上げる必要があります。
クマのような野生の捕食動物は、素早く逃げるものに反応して攻撃を仕掛けようとします。特に無防備な背中を見せることで、さらに攻撃性が高まります。クマに出会ってしまった場合は、走って逃げたり、大声を上げる等の刺激する行動は避け、落ち着いてゆっくりと後ずさりしながら離れましょう。
また、子グマを見かけて可愛いと思っても近づかないように注意が必要です。これは母グマが近くにいる可能性があるためです。子育て中の母グマは神経質になっているため、少しでも小グマに危険があると判断されると、問答無用に攻撃されてしまうことがあります。
実はクマを許可なく勝手に狩猟することは法律で禁止されています。クマは「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(鳥獣保護管理法)によって保護されている野生動物であり、違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。もしクマに遭遇して危険を感じた場合は、個人で対処しようとせず、速やかに警察や地方自治体の担当部署に連絡し、指示を仰ぐことが重要です。
なお、クマの捕獲や駆除は、以下のような特定の条件下でのみ許可されています。
適切な狩猟免許と登録を持ち、定められた狩猟期間中に、指定された区域内で捕獲する場合。
農作物や人身への被害を防ぐ目的で、都道府県知事や市町村長から許可を得て捕獲(有害駆除)する場合。
2025年9月1日から施行された改正鳥獣保護管理法により、人の生活圏にクマが出没し、他に迅速な捕獲手段がないなど一定の条件を満たした場合、市町村長の判断で緊急的に猟銃による駆除が可能になりました。
では、なぜクマが鳥獣保護管理法で管理されているのか?
現在、九州ではツキノワグマも絶滅、四国ではツキノワグマは十数頭から20数頭程度しかいないと考えられています。ツキノワグマは雑食で狩りを得意とする生き物ではありませんが、シカやイノシシなどの子供や弱った個体など、機会があれば狙って襲います。このように大型の草食動物(シカ・イノシシ)を脅かす天敵であるクマが自然界から完全に絶滅、もしくは減少することで、シカやイノシシなどの個体数が増加し植物が過剰に食べられてしまい、森林生態系が劣化することにつながる恐れがあるわけです。
そのため、クマは生態系を維持する役割と、人間への被害防止という両側面から、保護と管理を両立させる必要があるため、鳥獣保護管理法で管理されています。クマは生態系の重要な一部であり、彼らが絶滅すると生態系のバランスが崩れる可能性がある一方、生息域によっては人的被害を引き起こすため、法令に基づいた計画的な管理が求められます。
クマの被害は「対岸の火事」ではありません。記事内で紹介した通り、一度狙われたら防ぐのは困難です。だからこそ、「寄せ付けない」予防策が最強の防御となります。まずは今日、家の周りを一周し、放置されたゴミや隠れ場所になる藪がないか点検することから始めてください。 「正しく恐れ、正しく備える」。 この小さな積み重ねが、あなたと大切な家族の命、そして平穏な日常を守ることに繋がります。
これらの対策を総合的に行うことで、クマによる被害のリスクを大幅に軽減できます。クマ対策に詳しい専門家や地元の自治体、ハウスメーカーと相談しながら進めることをお勧めします。万が一の際は、迷わず警察や自治体へ連絡し、積極的にプロの力を借りましょう。