2025/10/21 公開
従来のキッチンやトイレ、お風呂にも換気扇が設置されていましたが、これらは「局所換気」といわれるもので、必要に応じて発生した水蒸気や臭気、熱などを逃がすためのものでした。それに対し、24時間換気はその名の通り基本つけっぱなしにするもので、窓を開けなくても常に家全体の空気を入れ替えていく仕組みのものを指し、「常時換気」とも呼ばれています。
義務化された理由としては主にシックハウス症候群を防止するためで、当時は気密性の高い住宅が増えたことにより、建材や家具・日用品などから発散するホルムアルデヒドやVOC(トルエン、キシレンその他)などの揮発性の高い有害物質が社会問題となっていました。事態を重く見た国は、2003年7月1日以降に着工する建物に常時換気できる設備の設置を義務づけ、他にもホルムアルデヒドを発散する内装仕上げの面積に制限をかけたり、天井裏や床下、収納部材の内部の制限を設けました。
このような経緯もあり、24時間換気システムはまだ誕生して20年ほどと、住宅設備の中でも比較的新しいもので様々な性能のものが開発されており、住む人間の健康に直結する設備となっています。導入する際は、専門スタッフとよく相談して選ぶとよいでしょう。
健康のために「食事」や「飲み物」に気を配っている人は多いと思います。なぜなら、食事や飲み物は人間の体内に入るもので、健康に直結するものと考える人が多いからです。でも、人間の体内に入るものがもうひとつあります───それは「空気」です。
人間が一度の呼吸で肺に取り込む空気の量は、通常時に約0.5リットルといわれています。そして1分間に12~20回呼吸するといわれているため、1日で換算すると8,640~14,400リットルもの空気を取り込んでいることになるのです。
このように人間は大量の空気を取り込んでいるため、住まいの空気が汚れていればいるほど、身体に悪い影響を受けてしまいます。人が住んでいる気密性の高い住宅で全く換気をしない場合には、下記のようなことが起こりえます。
空気の成分は、窒素(約78%)・酸素(約21%)・二酸化炭素(約0.03~004%)となっています。その空気を人間が吸い込み、吐き出した呼気の成分は、窒素(約80%)・酸素(約16%)・二酸化炭素(約4%)と変化します。
換気が行われない場合、室内の空気は呼気の成分の濃度に近づいていくため、酸素濃度は減少し、二酸化炭素濃度は上昇します。すると、脈拍・呼吸数増加、精神集中力低下、単純計算の間違い、精密作業性低下、筋力低下、頭痛、耳鳴り、悪心、吐き気といった症状が見られるようになります。さらに石油ストーブ、石油ファンヒーター等といった石油を燃焼させるような機器を動かしている場合は、さらなる酸素濃度の減少や不完全燃焼により一酸化炭素濃度が急上昇し、人命に関わるような影響を与えかねません。
人間の体は常に水分を入れかえていて、尿や便だけでなく皮膚や呼気でも水分を体の外に出しています。その量は1日で、皮膚からは600ミリリットル、呼気からは400ミリリットルにもなるといわれており、合わせると1リットルもの水蒸気が発生していることになります。
換気が行われない場合、室内の空気が水蒸気を大量に蓄えてしまい、湿度が高い状態となります。高湿度の環境下では汗が蒸発しにくくなるため、体温調節機能がうまく働かず「熱中症」が起こりやすくなります。他にも湿度を好むカビやダニが繁殖しやすい環境となるため、アレルギー疾患や感染症、カビ中毒、建物の傷みを引き起こす可能性も出てきます。
なお、調理や入浴はもちろん、洗濯物の室内干し、石油ストーブ・石油ファンヒーター・ガスファンヒーターの運転でも水蒸気が大量に発生し、室内の湿度を上げてしまうため注意が必要です。
ホルムアルデヒドとは、水素・炭素・酸素などで構成された揮発性有機化合物の一種で、常温では刺激臭のある無色の気体です。水に溶けたものはホルマリンと呼ばれます。安価に入手することができ、建材や家具の接着剤、塗料、防腐剤として制限なく用いられたため、シックハウス症候群の原因物質として社会問題となりました。2003年の建築基準法の改正でシックハウス対策が義務づけされ、建材などにホルムアルデヒドの放散速度量によるFスターの等級分けが義務化されるようになりました。
現在、建材メーカーの多くはF☆☆☆☆(エフフォースター)の取得を完了もしくは進行中であるため、シックハウス症候群の発生リスクは減少しています。それでも、建材や家具にホルムアルデヒドが完全に使われなくなったわけではないので、ホルムアルデヒド濃度が高くならないよう換気をする必要があります。
ハウスダストとは、ホコリの中でも特に1mm以下の肉眼では見えない微粒子のことを指しています。例えば、ダニの死骸・フン、花粉、カビ、細菌、繊維くず、人間の毛髪や皮膚片、ペットの毛や皮膚片、タバコの煙や排気ガスなどがこれに当たります。ハウスダストは風に乗って窓から入ってきたり、人の衣服やバッグなどの持ち物に付着して入ってくる場合、人やペットの身体から発生したり、衣類や寝具が擦れることで発生する場合などモノによって様々です。ハウスダストが体内に侵入すると体内の細胞が異物と判定し、くしゃみや鼻水、鼻詰まり、目のかゆみや痛み、皮膚の炎症やかゆみ、肌の乾燥や喘息・せきなどのようなアレルギー反応が起こる可能性があります。特にハイハイしかできないような乳幼児はハウスダストの溜まりやすい床付近で呼吸することが多く、吸い込むリスクも高くなるため注意してあげる必要があります。
24時間換気システムは換気方式により大きく分けて『第1種換気』・『第2種換気』・『第3種換気』・『第4種換気』の4種類あります。換気は新鮮な空気の入り口として給気口、汚れた空気の出口として排気口が設置されますが、これら給排気口を「機械」によるものにするか、もしくは「自然」によるものにするかによって区別したものです。
なお、4種類あるとしていますが、現在のところ住宅の24時間換気システムで使われる場合は『第1種換気』『第3種換気』の2種類となっています。それぞれにメリット・デメリットがありますので、しっかりと把握しておくとよいでしょう。
第1種換気とは給気口と排気口の両方に機械を設置して、換気をコントロールする仕組みです。給気口・排気口の両方に機械を設置するため、その分イニシャルコスト・ランニングコストがかかりますが、換気を効率的にコントロールしやすいという強みがあります。また、近年では「排出する室内の空気」と「吸入する外部の空気」の熱や湿度を交換し、室内の空気の温度・湿度を一定に保ちやすくする「熱交換器」を搭載したものも登場しています。ただし、第1種換気は構造が複雑な分メンテナンスも手間がかかり、メンテナンスがきちんとされてない場合は性能を十分に発揮することができません。採用する場合はこまめなメンテナンスすることができるかどうかも考えておく必要があります。なお、「熱交換器」には2種類あるので、環境に応じて選択することが可能です。
給気と排気の温度だけでなく湿度も交換し、室内の温度・湿度が一定に保ちやすくするタイプです。熱交換素子は熱と湿度を交換できるよう紙や不織布のような素材が使われており、乾燥しやすい冬場は屋内の湿気を回収することで乾燥を防ぎ、夏場は室内の乾燥した空気を回収し湿気を和らげる効果が見込めます。熱交換素子が紙や不織布のような素材なので水洗いができず、また湿気だけでなく臭気を回収してしまうため、湿度や臭気の強い浴室・トイレなどの排気計画は別に考える必要が出てくるのがデメリットです。冬場乾燥し、夏場は高温多湿な地域で使われることが多い熱交換システムです。なお、近年では熱交換素子に蓄熱性の高いセラミックを用いたものも登場しています。
給気と排気の温度のみを交換して、湿度は交換しないまま外へ排出するタイプです。熱交換素子は熱のみを交換できるようアルミのような素材が使われており、室内の熱を逃したくないが湿気をそのまま放出したい場合などに有効です。また、熱交換素子の水洗いできることや湿気や臭気を回収しないため、湿度や臭気の強い浴室・トイレなどの排気計画を別に考える必要がないのもメリットです。ただし、外部の湿気をそのまま取り入れるため、湿度については外部に依存します。石油ストーブやガスファンヒーターなどで室内に湿気がこもりやすい寒冷地、ペットとお住まいで臭いを気にされるご家庭で使われることが多い熱交換システムです。
機器導入のためイニシャルコスト・ランニングコストはどうしてもかかってしまう。しかし、その分住宅内の湿度や温度を調整する機能をうまく活用し、家族の健康の質を高めたり、光熱費を抑えたい。
第2種換気とは給気口に機械を設置することで室内に新鮮な空気を強制的に取り入れ、室内を正圧状態にすることで外部へ室内の空気を排出する仕組みです。しかし、室内に溜まった湿気が壁体を透過して外部へ出ようとし、内部結露を生じさせる危険性が高いため、住まいに採用されることはほぼありません。
室内の気圧の方が屋外よりも高くなるため、室内に塵やホコリが入りにくい。そのため病院の手術室や精密機器製造工場、クリーンルームや食品工場などで採用されることが多い。
第3種換気とは排気口に機械を設置することで外部へ室内の空気を強制的に排出し、室内を負圧状態にすることで外部から新鮮な空気を取り入れる仕組みです。外気をそのまま取り込むため室温が外気の影響を受けやすく、その分冷暖房の効きが弱くなります。しかし、シンプルな構造をしている分イニシャルコスト・ランニングコストも安い場合が多く、メンテナンスの手間も少ないため、あらゆる住まいに導入できる汎用性の高さが魅力です。
コスト面から1番普及している換気方式で、多くの住宅に取り入れられている。しかし、外気をそのまま取り込む形になるため、外気の熱や寒さの影響を受けやすいというデメリットがあるが、メンテナンスの手間があまりかからない気楽さがある。
第4種換気とは排気口と給気口を設置し、自然に任せるままに換気を行う仕組みです。そのため自然換気、パッシブ換気とも呼ばれるもので、窓やドアなど開口部を開放して換気するのもこれに当たります。換気量は気象条件により大きく影響を受けるため、計画的に換気したり、適切な換気量を確保したりすることはできませんが、電気代やメンテナンスも必要がありません。2003年7月から施行された改正建築基準法では計画的な換気設備の設置が義務化されたため、必然的に第1種換気か第3種換気を選ぶことになります。
今でこそ第4種換気は珍しいが、近年まで日本の住宅では第4種換気が一般的だった。(2003年の建築基準法改正により原則として全ての建築物に機械換気設備の設置が義務化されたため)
| 換気種類 | 給気方式 | 排気方式 |
|---|---|---|
| 第1種換気 | 機械 | 機械 |
| 第2種換気 | 機械 | 自然 |
| 第3種換気 | 自然 | 機械 |
| 第4種換気 | 自然 | 自然 |
これまでの話で24時間換気システムは、人間が住まいで健康的に暮らすための重要な設備だということがお分かりいただけたかと思います。24時間換気システムが住宅に取り入れるようになったのは住宅の気密性が高まったことが原因ですが、住宅の気密性の高さも24時間換気システムにとって重要なポイントになります。
24時間換気システムで住まい全体が計画的に換気されるようにするには「どこから新鮮な空気を入れて」・「どこを通り」・「どこから汚れた空気を出すか」という空気の入口・通り道・出口を考える必要があります。これがもし、家の気密性が低くすきま風が多いような状態では、空気の入口・通り道・出口が安定せず、効果的な換気が出来なくなってしまいます。つまり、24時間換気システムと住宅の気密性はお互いになくてならない関係というわけです。
なお、住宅の気密性はC値という数値で表現します。これは「相当すき間面積」といわれるもので、家にどれくらいすき間があるのかということを示しています。算出方法は「家中のすき間を集めたすき間面積(c㎡)」を「延べ床面積(㎡)」で割って導き出され、「c㎡/㎡」という単位で表されます。そのため数値が小さいほど気密性が高く、数値が高いほど気密性が低いということになります。
かつては「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」に基づく「次世代省エネルギー基準」にて、日本の地域ごとにC値の基準がありました。当時の基準は、北海道と東北の一部地域では2.0、それ以外の地域では5.0が基準と定められ、C値が基準以下の住宅は「高気密住宅」とされていました。(※C値1.0を目指すためには、目安としては家全体にあるすき間をハガキ1枚分以内に収めることが求められます。)現在では、2009年の省エネ法改正によりC値の基準が撤廃されており、現在は「高気密」を定義する明確な基準はありませんが、現在でもC値は気密性を表す重要な値となっています。
24時間換気システムはダクトの有無でも性能が異なってきます。
どのような性能の違いがあるか確認しておきましょう。
ダクト式は天井裏や床下に設置した換気装置本体をダクトと繋ぎ、ダクトを各部屋に張り巡らせることで、住まい全体の換気をコントロールします。換気が必要な部屋にダクトを取り回すことで住まいの隅々まで換気することができます。また、ファンは換気装置本体にしかないため、家じゅうがファンだらけになることもなく、モーター音を気にすることも少ないです。ただし、ダクトを取り回す必要上、ダクト配管分のスペースを圧迫することや、構造が複雑になるため設置費用が高めになります。また家じゅうに張り巡らせる分、ダクト内の清掃に手がかかることがネックです。
家中の空気の流れを設計通りにコントロールしやすく、ムラなく換気できる。しかし、内部にホコリやカビが溜まる可能性があるので、定期的な点検やメンテナンスをどうするか前もって考えておく必要がある。
ダクトレス式は外部に接した壁面に「給気口」と「排気口」となる換気装置を設置し、各部屋を空気の通り道とすることで、住まい全体の換気をコントロールします。「排気口」もしくは「給気口」なる部分に換気装置を設置するだけですみ、シンプルな構造なので設置費用が安く済みます。また、換気装置本体は壁面の手が届きやすい部分に設置されているため、フィルターの交換や清掃などのメンテナンスも比較的簡単です。ただし、外部に接していない部屋だと設置できないことや、気密性を高めた上で空気の流れを適切に設計しないと、家全体を計画的に換気することができない場合があるので注意が必要です。
家全体の計画的な換気はダクト式に劣る。しかし、ダクトの代わりを各居室が担うため、メンテナンスはこちらの方が容易だ。
24時間換気システムは使われている換気ファンの種類でも性能が異なってきます。
どのような性能の違いがあるか確認しておきましょう。
昔ながらの換気扇や扇風機のような形状をしたファンで、安価でコンパクト、メンテンスが簡単といった特徴があります。ただし、パワーが弱く強風時などは空気が逆流するなど、換気が正常に機能しない場合があるので注意が必要です。特にダクトレス式に採用される場合が多いです。
プロペラファンは薄いシンプルな構造をしていることから、屋外と面している壁に取り付けられることが多い。しかし外気に近い分、外部の風が排気口(または吸気口)に直接吹き込みやすい。
小さな水車のような形状のファンで、レンジフードなどに使われている場合が多いです。パワーがあるため、強風でも逆流が起こりにくく安定した換気ができるのが強みですが、厚みがあるため設置スペースが必要です。特にダクト式に採用される場合が多いです。
名前はイタリアのサハラ砂漠から吹く「シロッコ」という熱風に由来する。巨大で設置スペースも多く必要になってしまうが、その分集煙力が高い。
24時間換気システムに使われているファンはモーターによる違いで、ACファンとDCファンという2種類のファンに分かれています。ACは「Alternate Current」の略で交流を意味しており、ACファンは交流電源で駆動します。DCは「Direct Current」の略で直流を意味しており、DCファンは直流電源で駆動します。
DCファンのメリットとしては、ACファンに比べ消費電力を抑えることができることです。ACファンでは磁気を常に変化させて回転するための力を得るために、回転部と固定部の両方のコイルに電気を流し磁界を発生させます。しかし、DCファンでは回転部もしくは固定部のどちらを永久磁石にし、電気を流すのは回転部もしくは固定部のどちらか片方で済みます。
しかし、ACファンにもメリットがあります。ACファンはDCファンに比べ構造がシンプルなため、長寿命で保守が簡単、本体自体の価格が割安となっています。DCファンの場合、壁のコンセントから取れる100Vの電源が交流電源なので、それを直流電気に変換する電源回路(インバーター)と、ファンの回転数を調整するための回路が必要となるため高価になってしまいます。
では、ACファンとDCファンのもの、どちらを選べばいいのか?という話になりますが、どちらがコスト的に優れているかは本体価格の差や電力量料金の料金単価によって変わってきます。24時間換気システムは基本24時間つけっぱなしにするため、月間にかかるおよその電気料金も算出することで比較できるため、自分で月間の電気使用料金を計算できるようにしておくとよいでしょう。
例)85Wの24時間換気システムを1ヶ月稼働させた場合の電気料金の試算
85W(0.085kW) * 24h * 30日 * 37円/kW = 2,264.4円
※東京電力エナジーパートナー 関東エリアスタンダードS 電力量料金2段階目 (37円/kW)で概算した場合
24時間換気システムは、シックハウス対策として法律で義務付けられており、健康な室内環境の維持に不可欠です。換気方法には第一種から第三種まであり、それぞれコストや性能が異なります。特に高気密・高断熱住宅の性能を活かし、室温や湿度を快適に保つには「熱交換型」の第一種換気が重要です。
タイセーハウジングでは、建物の性能やお客様のライフスタイルに合わせ、最適な換気計画をご提案します。目に見えない空気の質にもこだわった家づくりをご希望の方は、ぜひお気軽にご相談ください。