注文住宅のライフライン寸断への対策
【ライフラインの種類と備え】

住まいの防災対策②

住まいの防災対策①では、災害そのものの被害を抑えるための対策について見てきました。しかし、災害は直接的な被害だけでなく、ライフラインを停止させてしまうという間接的な被害も及ぼします。ライフラインとは、都市生活の維持に必要不可欠な、電気・ガス・水道・通信・輸送などを指し、災害の規模が大きくなるほどライフライン停止の期間が伸びる傾向があります。例えば、東日本大震災では、ほぼ全世帯が復旧するのに電気で1週間程度、水道で3週間程度、ガスでは5週間程度時間がかかり、その期間中は人々の生活に深刻な影響が出ました。
しかし、住まいに予めライフライン停止への備えを施しておけば、施してない場合に比べ、被災中の生活が楽になりますし、何より心に余裕ができます。また、被災復旧時にはいち早く通常の生活に戻ることも可能になるので、急に災害が起こっても慌てずに済むようにしておくとよいでしょう。

記事の目次
停電

灯りやテレビや洗濯機、冷蔵庫などの電化製品は基本電気で動く。日々当たり前に動くものだからこそ、停電時は電気のありがたみがよく分かる。

現代社会は電気なしでは何もできない時代で、停電になると家中すべての家電が使えなくなり、具体的には「冷蔵庫が使えない」「冷暖房が使えない」「照明器具が使えない」「携帯電話の充電ができない」とかなり困った状況になります。内閣府による首都直下地震等による東京の被害想定によれば、電気の復旧目標日数は6日となっているので、ライフラインの中で最も早く回復するのを期待できます。しかし、災害の規模によってはそれ以上になることもありえますし、電気は生活インフラとして重要なものとなっているので、万が一に備え対策しておいた方がよいでしょう。

太陽光発電

太陽光発電とは、屋根などに太陽電池モジュールを設置し、太陽光を電力に変換する仕組みです。発電した電気は直流電力で、そのまま家電などに利用できないため、パワーコンディショナーという機器で交流電力に変換した後に、住宅内へ分配されます。太陽が沈む夜間は発電できないため、夜間や停電時に利用するためには、蓄電池が必要になります。こうした太陽電池モジュールやパワーコンディショナー、蓄電池は耐用年数があり、導入コストとランニングコストも決して安くはない設備のため、節約できる光熱費、売電価格を考慮して導入する必要があります。
現在日本ではZEH(Net Zero Energy House ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略語で、ゼッチと読みます。)の普及が進められています。ZEHとは、「消費するエネルギーが少ない住まい」、「作り出すエネルギーが消費エネルギーを上回る住まい」、この2つを満たした住宅のことです。これらのZEHの基準を満たし、住宅がZEHと認定されると、国から一定の補助金を受け取ることができるため、導入コストをある程度抑えることが可能です。

太陽光発電

ソーラーパネルの寿命目安は一般的には20~30年、パワーコンディショナーの寿命は一般的に10~15年程度といわれており、定期的なメンテナンスが必要だ。

エネファーム

エネファームとは、都市ガスやLPガスから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させることで、電気を作り出す家庭用燃料電池です。また、発電する時に出る熱を有効利用して、お湯も作り出すことができます。
もし、発電中に停電しても、ガスと水道が供給状態であれば、発電を継続することができます。電気は停電時専用コンセント(自立運転専用コンセント)からのみ使用できます。

エネファーム

出典:パナソニック株式会社 家庭用燃料電池 エネファーム 一体型

断水

断水時、飲料水の確保は必須。大人1人が1日に必要な水分量は、体重1キロにつき約35mlといわれており、これは体重70kgの大人で2.45Lの水が必要になる計算だ。

日本は水に恵まれている国で、生活の様々な場面で水が使われています。なので、一旦断水が起きてしまうと、飲み水はもちろん、洗面や手洗い、炊事、洗濯、お風呂、トイレなど、普段水を豊かに使っている場面で支障が出ることになります。内閣府による首都直下地震等による東京の被害想定によれば、上水道の復旧目標日数は30日となっており、東日本大震災ではほぼ全世帯が復旧するまで3週間程度かかりました。
一応、災害時は「災害時給水ステーション」で水を給水することができることになっています。しかし、給水車の到着や給水所の設置までに時間がかかったり、給水ステーションが混み合うことが想定されます。最低でも飲み水は備蓄しておき、事前に断水への備えをしておくことが重要です。

飲料水貯水システム

飲料水貯水システムとは、床下や屋外などの水道管に取り付ける大容量貯水タンクのことです。日々の生活でタンク内の水道水を新しい水道水に入れ替えながら貯めておき、断水時は加圧ポンプで空気を送り込むことで、蛇口から水道水を取り出す仕組みとなっています。メーカーや商品により貯水量は異なりますが、24~120L程度の水を貯めることができ、飲料水として利用できる新鮮な水が手に入るのがポイントです。

飲料水貯水システム

出典:株式会社テクノフレックス 非常用貯水機能付き給水管 マルチアクアC

雨水タンク

雨水タンクとは、雨どいに取水口を取り付け、屋根から流れてくる雨水を集め貯蔵することができるタンクのことです。タンクには蛇口がついているので、水を使いたい場合は蛇口から水を出すことができます。メーカーや商品により貯水量は異なりますが、80~500L程度の水を貯めることができ、いざという時は非常用の生活用水として使用することが可能です。浄化されていない水なので、そのままの状態で飲料水やお風呂の水として使わないようにしましょう。普段はお庭の水やりや洗車、打ち水、掃除用の水として活用することで、水道代を節約するのにも向いています。

雨水タンク

自治体によっては、雨水の流出抑制および防災や環境意識の向上のため、雨水タンク設置に補助金を出してくれるところもあります。

エコキュート

エコキュートとは、エアコンにも使われているヒートポンプ技術を使い、大気の熱でお湯を沸かす家庭用給湯設備です。熱をつくるのではなく、もともと空気中にある熱を集めて運ぶので、使う電気エネルギーが少なくて済む仕組みとなっています。また、エコキュートの種類やメーカーにもよりますが、作ったお湯は177~560Lの貯湯タンクに貯めることができ、いざという時は非常用の生活用水として使用することが可能です。注意点としては、沸かした水は塩素が抜けてしまったり、貯湯タンクの内部には水道水の成分が付着・沈殿している場合があるため、飲料水としては使用しないようにしましょう。

エコキュート

ハイブリッド給湯器(エコワン)は、貯湯ユニット(左から1番目)とヒートポンプユニット(左から2番目)で構成されている。

エネファーム

先述したエネファームは断水対策としても有効です。エネファームで作られたお湯は100~130Lの貯湯ユニットに溜められているため、いざという時は非常用の生活用水として使用することが可能です。こちらもエコキュート同様沸かした水で、飲料水としては適さないため、非常用の生活用水として活用しましょう。

エネファーム

出典:パナソニック株式会社 家庭用燃料電池 エネファーム 一体型

物資不足

食料品や生活必需品は特に無くなりやすい。ただし、断水時は飲み水が貴重となるため、辛い食料品は不人気で売れ残っている場合が多い。

災害が発生すると、交通網の麻痺などで、品物が入ってこない、入ってきてもすぐ売り切れてしまう、といったような物資不足の状況になる場合があります。台風の場合は、ある程度前から来るかどうか分かるので、早い段階にお店から商品が消えてしまうことも・・・。こういった現象は災害前後で、「お店から品物が無くなる前に買っておこう」という消費者心理で、一気に商品を買い込まれることで発生します。そのため、災害時にお店から在庫が無くなることが想定される品物は、住まいの中にある程度の在庫が常にある状態にしておくことが望ましいです。また、ただ在庫を確保したままでは腐らせてしまうので、ローリングストック法(日々の生活の中で賞味期限の古いものから消費し、消費した分は買い足すことで常に一定量の物資を備蓄する方法)を行うことで、無駄なく備蓄することが可能です。

災害時、特に品薄になりやすいもの
品目 備考
通常のミネラルウォーターの賞味期限は約2年、保存水だと5年以上あるものも。500mlのものは割高になるが、コップが必要なく、個人で飲みきりやすく持ち運びやすいので、オススメです。備蓄量は一人一日3リットルを目安に、最低3日分(9L)~1週間(21L)分 × 人数分が理想。
食料品 常温で長期保存が可能なもの(カップ麺、レトルト食品、缶詰など)、栄養のバランスが良く消化のよいもの(野菜ジュース、プロテイン、サプリメント)、普段から食べ慣れている好きなもの(チョコレートなどの甘味やスナック菓子、アルコールなどのストレスを和らげるもの)などを中心に揃えておくとよいでしょう。
調味料 空気に触れない二重構造ボトルタイプの醤油や、小袋タイプのマヨネーズなどは、停電で冷蔵庫が使えなくなっても常温保存が可能です。また、はちみつは常温保存がきく上に、非常食に多いパンやカンパン、ビスケットに合うため優秀な調味料です。ただし、乳児に与えるとボツリヌス症を発症する可能性があるため、注意が必要です。
紙皿・紙コップ・割り箸 断水で水が不足すると、食器洗浄をするにも困るため、使い捨てができる紙皿・紙コップ・割り箸が重宝されます。代用として、サランラップを割れにくい食器(プラスチックやポリプロピレン製)に被せて使用し、サランラップを交換していく方法があります。
トイレットペーパー 経済産業省によると、トイレットペーパーは1ヶ月分の備蓄をすることが推奨されています。(※1人だと1ヶ月4ロール程度が目安。4人家族だと1ヶ月16ロールの計算。)しかし、災害で排水パイプの破損が起こり、トイレを水で流せない状態になることも想定できるため、余裕があれば簡易トイレセットなども用意しておくとよいでしょう。
ウェットティッシュ 断水で水が満足に手に入らない状態になった時、入浴代わりの体拭きやトイレ後の手拭き、怪我をした際の傷口拭きなど、体を清潔を保つ役に立ちます。アルコール入りのタイプや水だけ入っているタイプがありますが、汎用的に使える水だけ入っているタイプだけでも用意しておくとよいでしょう。
生理用品やベビー用品 ご家族に女性や赤ちゃんがいる場合など、生理用品やベビー用品も揃えておくとよいでしょう。併せて使い捨てカイロを用意しておくと、冬場に暖を取れるだけでなく、生理痛の緩和やミルクを人肌に温めることもできるのでオススメです。
カセットボンベ 災害時様々な食品を備蓄していたとしても、冬場にそのまま食べると体が冷えてしまい、体調を崩してしまいます。しかし、カセットボンベがあると、お湯を使った調理や食材を温めることができます。農林水産省によると、大人1人1週間で6本程度使うので、ご家族の人数に合わせて備蓄量を調整しておくとよいでしょう。
灯油 雪国などで灯油ストーブをお使いの家庭では、冬場の災害に備え、灯油も備蓄しておいた方がよいでしょう。ただし、灯油は石油製品の中でも劣化しやすく、長期保存に向かないため、普段灯油を使わない家庭では、備蓄はしない方が無難です。なぜなら、劣化した灯油を灯油ストーブで使用した場合、異常燃焼などで火災の原因になりうるからです。また、「危険物」とされる灯油は、40度以上で気化し引火の危険性があるなどの特徴があります。保管する場合は、火気のない冷暗所で、ポリエチレン製の専用タンク(ポリタンク)や一斗缶、金属製のタンクなど、しっかり密栓できる容器に入れるなど、取り扱いに注意が必要です。
乾電池 停電時は家のコンセントが使えなくなるため、乾電池をある程度備蓄していた方が安心です。夜用の灯り(居間用のランタンや持ち歩き用のライトなど)や、情報を収集するためのラジオ、スマホなどを充電するための電池式モバイルバッテリーなどの機器に必要になります。なお、電池は永遠に保管できるようなものではなく、使用推奨期限というものがあり、これを過ぎると液漏れが起きたり、電池がすぐ使えなくなってしまうというような事態が発生しやすくなります。マンガン電池では製造年月日から約2年、アルカリ電池では約5年(いずれも単三電池の場合)が一つの目安となっているので、平時にはローリングストックを行って、新しい乾電池と入れ替わるようにして使いましょう。

パントリー

パントリーとは、消耗品(常温保存できる食品・日用品)を備蓄するための収納専用のスペースを指します。料理中にアクセスしやすいように、キッチンの近くや一角に設置されることが多く、食料品は冷暗所保存が望ましいものが多いので、日本では北や東の方向に作られる場合が多いです。災害時の備蓄庫として活躍するのはもちろん、消耗品を使い切ってしまっても買い物に行かずに済むこと、備蓄を一箇所にまとめることで、探す手間がなくなり、在庫や賞味期限の管理がしやすくなど、日常生活でも便利に使うことができます。
ただし、せっかくパントリーを設置しても、乱雑に消耗品を置いてしまうと、探す手間が在庫や賞味期限の管理ができなくなってしまいます。コンビニやスーパーの陳列棚のようにジャンル毎、商品毎にまとめ、古いものから前に陳列し、なるべく探しやすいように、取り出しやすいようにしておくことがポイントです。さらに重いもの(お米や水など)は下の方に、軽いもの(トイレットペーパー)は上の方に置くようにし、地震が起きても倒れないようにしておきましょう。また、パントリー自体を玄関や勝手口からキッチンへ繋がる導線上に設置しておくと、キッチンからアクセスしやすく、買ってきた品物を運びこむ手間を減らすことができます。

パントリー

パントリーはよく使うものを整理して陳列しておこう。同時に在庫管理表なども作っておけば、家の中の小さなコンビニとして活用できるはずだ。

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